Forest of Stories

Even one leaf is a part of THE FOREST.

Leaf 8

針のような北風が、微動だにしない秋田犬の頬を刺す。その静けさの隣には声があり、歌があり、音がある。真っ白に覆われた冬空の下、渋谷の街は覚めない夢のように心地よい騒がしさに包まれていた。

続きを読む

Leaf 7

車内に空いている席を見つけた早瀬は、ちょこちょこと駆け寄ると腰掛けた。彼女は正面に立った竹内をまぶしそうに見上げた後で、そっと目を瞑った。呟くように「せっかくリラックスしていたのに、余計なことを思い出しちゃった」と漏らした。尋ねると、両親の姿がちらついたと笑う。酔いのせいか疲労のせいか、と首を横に振る彼女の瞼には疲労の色が浮かんでいた。竹内はその小さな顔をしばらく見つめた後で、視線を吊り広告に移した。内容はあまり頭に入らなかった。

続きを読む

Leaf 6

 「それから、一つ聞きたいことがあるんです。なぜ、さっき店を出たあと、倉下にあんな話をしていたんですか。ホテルに行こうかな、みたいな感じで」

「ああいう話をしないと、倉下さんにいじめられるんです」

続きを読む