Forest of Stories

Even one leaf is a part of THE FOREST.

Leaf 11

その涙に、僕はどんな言葉を掛けるべきなのかわからなかった。何も言わずに黙々とピザを頬張るさとみは、こちらに気を配る余裕がないという様子である。時折浮かぶ涙が、店内の照明を静かに反射していた。

「……こんな質問をするのは酷かもしれませんが、今後どうやって生活していくおつもりですか」

聞くべきではないとわかっていた。しかし、これを聞かずに別れるわけにはいかない。相手は自分よりも若い女性二人なのだ。

「ホームレス生活に戻ります。この間も、姉と『こうなったら死ぬのも怖くないよね』と話していたところだったんです。それで、もしもいつか家が見つかればいいなって」

よほどの覚悟をしなければこんな発言はできまい。このまま放っておけば二人は行き倒れになるかもしれない。

「そうですか。でも、どうしても気になるので、また会う日を決めておきませんか」

さおりが間髪入れずに答える。

「ただ、私たちには日にちの感覚が全くなくなってしまっているので、ちゃんと会えるかどうか……」

それなら、と僕はバッグの中から小さな手帳を取り出した。会社で支給されたもので、中には仕事の予定が書きこまれていたが、抵抗はなかった。彼女たちの状態を確かめなければならないという責任感が僕にそうさせたのだろう。差し出したその手帳をさとみがすっと受け取って、大事そうに薄汚れたバッグに入れた。秋葉原で会ったときと同じバッグだった。

「また、一週間後に会いましょう。場所は今日と同じハチ公前でいいですよね。」

「はい。お姉ちゃん、いいよね。それまでまた生きようね」

生きようね、という言葉がやけに心に引っ掛かった。生死を目の前にすると、これほどまで自然に言葉が出てくるものなのか、と実感する。僕はさおりが一枚目のピザを口に入れるのを見届けてから、フライドポテトに手を付けた。

それでもさとみは黙ったままだった。