Forest of Stories

Even one leaf is a part of THE FOREST.

Leaf 10

「この一週間のことを話してもいいですか」

なぜここまで話してくれるのだろう、と不思議だった。しかし僕にはその話を聞く責任があるし、その意欲もある。もはや僕は「知らない人」ではないのだ。倉下は、火事のことは知っているが、今日僕が二人と会うことは知らない。ただ渋谷でさとみとデートするのだと信じきっているのである。それでよいと思った。さとみから倉下についての話を聞いて以降、どうしても彼への不信感が拭えない。彼に彼女たちの苦労を知る資格はないのだと確信している。

「もちろん。差障りのない範囲で聞かせてください」

「長くなってしまうと思いますが、すみません。

駅で竹内さんを見送ってから、二人で家に……家があった場所に、戻りました。跡形もないほどに燃えてしまった家を見て、姉のショックは大きいものでした。横に立っているだけで、心臓の鼓動が聞こえてきそうなほどでした。その日に限って電車で何十分も掛かる秋葉原に行ってしまったということの後ろめたさもあったのかもしれないと思っています。通勤や通学以外では普段は自由が丘や渋谷くらいまでしか出掛けない姉にとっては、それほど遠出するのは珍しいことだったんです。ですから、よほど倉下さんが好きなのだと思いました。本人は今でも否定しますけどね。

姉が帰ってくるまで、本当に私は孤独でした。両親に頼まれてコンビニに軽い買い物をしている間に家が炎に包まれていたので、119番はしたものの、ただその様子を見つめることしかできませんでした。姉が帰ってきてくれれば安心できるのに、と何度も思いました。もちろん、私は全く竹内さんを責めるつもりはありません。姉から話を聞き、竹内さんが非常に優しい方であることもわかっています。酔っていた姉を桜新町まで連れてきてくださってありがとうございました。

警察は、私が放火したんじゃないかなんて疑っていました。何度も警察署まで呼ばれて、同じ説明を何度もさせられました。最終的に分かってもらえましたが、精神的にとても辛かったです。結局、出火原因はたばこの不始末ということで落ち着いたようです。たばこの火から引火したらしくて。前から父には禁煙してねと言っていたのですが、残念で仕方がありません。

それから、私たちは公園から公園へとさまよいました。頼るあてもなく、ただホームレス同然の生活です。少しの食べ物を二人で分け合いました。姉は私のことを思って、いつも多く食べさせてくれます。そんな一週間を過ごした今では姉はこんなに痩せてしまって、触るとわかりますが、本当に脂肪が無くなってしまったんです。申し訳ないと思いながらも、姉もそういうところはかなり頑固な性格ですから、決して多く食べようとはしません。寝るところを探すのも一苦労でした。女性ですから、やはり場所を選ばなくてはなりません。一度など、公園の女子トイレで一晩を明かしたこともあります。

早く落ち着いた生活をしたいと願っているのですが、お金もありませんしなかなか難しいんです。姉は仕事を辞めてしまいました。着ていく服もないし、両親が亡くなって仕事どころでもないしと言います。私も卒論を書かなくてはいけないのですが、その手立てがないので放置してしまっています。

火事が私たちの生活を壊してしまいました」

ここまで一気に話して、さおりは涙を流した。