Leaf 1
地下鉄のプラットフォームに下る階段に差し掛かった辺りで、スイングトップの内ポケットの中でスマートフォンが電話の着信を告げた。少しの緊張を感じながら画面を見ると、「倉下裕介」の名前が表示されていた。
「――なんだ、倉下か」
「おっ、張り切ってるじゃん。『健闘を祈る』って言おうと思って電話したけど、言うまでもなさそうだな」
電話が切れるのを待っていたように、静かに地下鉄が入ってきた。普段は立つスペースもないほどに混雑している車内も、日曜日の早朝となれば人が少ない。顎まで引き上げていたマフラーを少し下げながら乗り込むと、ぼうっと暖かな空気が彼の身体を包み込んだ。ちょうど空いていた端の席に腰を下ろし、ほっと息をつく。何とも言えない緊張感と、抑えようもない高揚感を抱えながら、紺のコーデュロイパンツの生地の方向を合わせるようにして撫でた。
真っ暗になった窓の外を見透かすともなく見透かす。時折流れるトンネル内の電燈が、なぜか気持ちを焦らせる。いてもたってもいられずに点けたスマートフォンの画面には、デジタル表示の時刻の奥に先週見上げた青空が映っていた。乗換駅までは時間がかかる。すっと眼を閉じると、あの日の景色が浮かび上がってきた。